冬の、誰もいない宿

冬の平日に、温泉宿に泊まるのが好きだ。

観光地の宿でも、冬の平日となると、客はぐっと減る。
ときには、広い宿に、泊まりがぼく一人、ということもある。

夕食を運んでくれる仲居さんが、
「今日はお客様おひとりなんですよ」と、少し申し訳なさそうに言う。
ぼくは、それがいい、とは言わないが、内心、ありがたく思っている。

誰もいない大浴場に、ひとりで浸かる。
窓の外は、雪。
湯気の向こうで、雪が、音もなく降っている。
湯の音と、ときどき、軒から雪が落ちる音だけ。

こういう静けさは、都会では、お金を出しても、なかなか買えない。

仕事柄、賑やかな観光地の取材も多いけれど、
ぼくが本当に落ち着くのは、こういう、人のいない場所だ。
昔からそうだった。
人混みにいると、どうも、自分の輪郭が、ぼやけてくる気がする。

ひとりは、さみしくない。
ひとりが、いちばん、自分でいられる。

——と、こういうことを書くから、
心配されることがあるのだが、本当に、ただ性に合っているだけなのだ。

明日は、雪がやむといい。
やまなくても、それはそれで、いい眺めだけれど。

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