仕事の合間に、ときどき、自転車で遠出をする。
学生のころからの癖だ。
当時は金がなかったから、どこへ行くにも自転車だった。
夜行で輪行して、知らない土地に降り立って、
あとはただ、ペダルを漕いで、行けるところまで行く。
目的地は、特に決めない。決めないのがいい。
車だと、速すぎる。
速すぎて、土地が「流れて」しまう。
徒歩だと、今度は遅すぎて、範囲が狭い。
自転車くらいの速度が、ちょうどいい。
道の勾配が、そのまま脚にくる。
風の匂いが変わるのがわかる。
集落に入ると、犬に吠えられ、人に見られ、
ああ、よそ者が来た、という空気を、肌で感じる。
その「土地を体で測っている」感じが、たまらない。
先日も、休みを一日つくって、ある川沿いをひたすら遡った。
下流は、よくある地方都市の風景。
それが、漕いでいくにつれて、だんだんと家がまばらになり、
やがて、人の気配が消えていく。
道はどんどん細くなり、舗装が途切れ、
最後は、もう自転車では進めないところで、行き止まりになった。
その行き止まりの先に、かつては集落があったらしい。
朽ちた標識に、かろうじて地名が読めた。
引き返しながら、いつも思う。
人は、どうしてこんな奥まで来て、暮らそうと思ったのだろう。
そして、どうして、出ていったのだろう。
来るときは、きっと理由があった。
出ていくときにも、理由があった。
その両方の理由を、ぼくは知らない。
知らないまま、ただ、彼らが引いた道の上を、自転車で辿っている。
帰りは下りだから、楽だ。
来た道を、風を切って、あっという間に下る。
登るときには見えなかったものが、下りでは見える。
不思議なものだ。同じ道なのに。
また行こう。
次は、どの川を遡ろうか。

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